投資先から届く決算資料をファイル共有サービスに置くだけで、AIが数値を読み取り、投資先概況書に載せる基礎数値が自動で算定される。ベンチャーキャピタルの地域と人と未来株式会社様(以下、CJS様)に、投資先管理システム「Investment Hub」を開発しました。人がExcelに打ち直す工程がなくなり、5人で3週間かかっていた報告書作成が、2人・1週間で終わるようになったとうかがっています。最初のご相談から本番稼働まで、およそ1か月でした。

目次(14項目)

この記事の要点

課題
投資先の決算資料はファイル共有サービスに集まっていたが、中の数字は人がひとつずつExcelに打ち直していた
やったこと
共有フォルダに置いた資料をAIが読み取って数値化し、投資先概況書における基礎数値を算定するシステムを開発(システム全体としてはファンド指標まで計算できるように設計)
成果
手入力の工程が不要に。報告書作成は5人×約3週間から2人×約1週間に(CJS様申告)。本番移行では計3,078件のデータを取り込み

業種ベンチャーキャピタル(愛知県名古屋市)

CJS様は、スタートアップに投資し、投資後の成長を支援するベンチャーキャピタルです。複数のファンドを運営し、それぞれのファンドに数十社の投資先企業がいます。

ベンチャーキャピタルの実務では、投資して終わりではありません。投資先が今どういう状態か、ファンド全体の運用状況を継続的に把握し、出資者へ報告する必要があります。この業務は、投資判断と同じくらい重要です。

課題資料は共有フォルダに集まるが、数字は人が手で転記していた

ご相談をいただいた時点で、投資先の月次試算表や決算書は、ファイル共有サービスに集まってはいました。問題はその先です。

  • 資料が投資先ごと・種類ごとに散らばっていて、「今どうなっているか」をすぐに見られない
  • PDFやExcelの中の数字を、人がひとつずつExcelに打ち直していた
  • ファンド全体の成績を出すには、転記が終わるのを待つ必要があった

つまり、資料は集まっているのに、数字として使える状態になるまでに人の作業が挟まっていました。投資先が増えるほど、この作業だけが比例して増えていきます。

導入前は、投資先から届いた決算資料をファイル共有サービスに置いたあと、人が手でExcelに転記してから報告資料をつくっていた。導入後は、その転記工程がAIの読み取りに置き換わり、報告に使う基礎数値が自動で算定される。
導入前後の流れ。なくなったのは「人が手で転記する」工程だけで、フォルダ構成も報告のフォーマットも変えていません。

進め方最初の相談の翌日に、動く試作を持っていった

ご相談をいただいたその日の夜に動く試作をつくり、翌日の打ち合わせでお見せしました。要件を文章でやりとりするより、動くものを見ながら「これは要る/要らない」を決めていただくほうが早いと判断したためです。

この打ち合わせで、つくる範囲を先に合意しました。それ以降は、実際の画面を見ていただきながら直していく進め方です。

2026年5月に試作を一晩で作成して打ち合わせで提示、6月に本番システムを構築して稼働開始、7月に複数ファンド対応とファイル共有サービスとの連携を追加、9月以降は運用・保守という流れを示したタイムライン。
5月の試作から現在までの流れ。最初のご相談から本番稼働まで、およそ1か月でした。

Central AXのAI受託開発・業務改善は、この「まず動くものを見せて、いる/いらないを決めてもらう」進め方を基本にしています。

やったこと1共有フォルダに置いた決算資料を、AIが読んでそのまま数値にする

ファイル共有サービスと連携し、投資先フォルダに置かれた決算書・月次試算表をAIが読み取って、そのままシステムに取り込む仕組みを作りました。ファンド → 投資先 → 資料種別、という既存のフォルダ構成をそのまま使うため、CJS様の側でフォルダの並べ替えをする必要はありません。

取り込みは、いきなり反映せず、先にプレビューで中身を確認してから確定する手順にしています。読み取り結果をそのまま信じて上書きしない設計です。

Investment Hubのデータ取り込み画面。「①取り込み元を選ぶ→②内容を確認する→③反映する」の3ステップが上部に並び、共有フォルダをファンド→投資先→種別の3階層でたどって一括取込する導線が表示されている。
実際のデータ取り込み画面です。「取り込み元を選ぶ → 内容を確認する → 反映する」の3ステップで、確認を挟まずに反映されることはありません。画面の内容はデモ環境のダミーデータです。

やったこと2ファンドの成績指標(TVPI・IRR・NAV・DPI)まで計算できる設計にする

キャピタルコール、投資実行、分配、Exitといった資金の動きを登録すれば、ファンドの成績指標であるTVPI・IRR・NAV・DPIまで計算できる設計にしています。現在は、投資先概況書に載せる基礎数値の算定を中心にお使いいただいています。

月次の投資と累積の推移はグラフで、投資先ごとのNAVと未実現損益は表で、同じ画面に並びます。

Investment Hubのファンド・パフォーマンス画面。上段にTVPI 1.71倍・DPI・RVPI 1.71倍・IRR 35.2%・払込済1.05億円・NAV1.79億円が並び、その下に月次キャッシュフローと累積推移のグラフ(棒=月次の投資、線=累積投資とNAV)、さらに投資先別のNAV内訳表が表示されている。
実際のファンド画面です。資金の動きを登録すると、TVPI・DPI・RVPI・IRR・NAVが自動で計算され、月次の推移がグラフに、投資先ごとの内訳が表になって同じ画面に出ます。画面の数値はデモ環境のダミーデータです。

やったこと3投資先の資金があと何か月もつかを、自動で見張る

投資先ごとに、手元資金があと何か月もつか(ランウェイ)を自動で監視しています。残り6か月以下は「要対応」、12か月以下は「注意」として画面に出ます。

ベンチャーキャピタルにとって、投資先の資金ショートは最も気づくのが遅れてはいけない事象です。人が毎月チェックする代わりに、システム側から知らせる形にしました。ログインして最初に開くダッシュボードにも、投資先合算の売上と現預金の推移、いま見るべき投資先が並びます。

Investment Hubのダッシュボード画面。上段に要対応・注意の件数、アクティブ投資先、月次データ取込、投資実行済が並び、その下にポートフォリオ・モメンタムとして売上12.17百万円(前月比+15.2%)と現預金1.91億円(前月比-2.5%)が推移バーつきで表示され、さらに下に「要対応の投資先」として要観察の1社が挙がっている。
実際のダッシュボードです。ログインして最初に開く画面に、投資先合算の売上・現預金の推移と、いま見るべき投資先が出ます。画面の数値はデモ環境のダミーデータです。

成果手入力の工程がなくなり、報告書作成は5人×3週間から2人×1週間に

導入によって変わったことは、次のとおりです。

  • 決算資料からExcelへの手入力工程が不要になりました。共有フォルダに置く運用はそのままです
  • 報告書作成が、5人で約3週間(延べ約200時間)から、2人で約1週間(延べ約100時間)になったとうかがっています(CJS様申告)
  • 本番移行時に、計3,078件のデータを取り込みました(2026年7月時点)

なお、本番へ反映する前には毎回1,183件の自動テストを通しています。投資先の財務情報を扱うシステムのため、機能追加のたびに既存の計算が壊れていないことを機械的に確認しています。

お客様の声「5人で3週間かかっていた報告書作成が、2人・1週間に」

もともと5人で3週間かかっていた報告書作成が、2人・1週間で終わるようになりました。

— 地域と人と未来株式会社 林様

設計で重視したこと他社のデータが見えない構造と、判断を人が持つこと

投資先の財務情報という、外に出てはいけないデータを扱う案件でした。設計では次の2点を重視しています。

1つ目は、データの分離です。複数のファンド運営会社が同じシステムを使う構成にしていますが、ログインした組織のデータ以外は表示も取得もできない作りにしています。あわせて、誰がいつ何を操作したかの記録(監査ログ)を残しています。

2つ目は、判断を人が持つことです。AIがやるのは「資料から数値を読み取る」ところまでで、評価額の確定や資料の扱いの判断は人が行います。AIの読み取り結果がそのまま確定値になることはありません。

運営会社Aでログインした場合と運営会社Bでログインした場合で、見えるファンド・投資先・共有フォルダが分離されており、境界を越えられないことを示した図。仕組み自体は共用している。
データの分離。仕組みは共用しつつ、ログインした組織の範囲を越えてデータに到達できない構造にしています。

やらなかったことつくらない範囲を、最初に線引きした

最初の打ち合わせで、つくる範囲と同時に「私たちではつくらない範囲」もお伝えしました。具体的には、次の3つです。

  • 株主総会まわりの会社法への準拠(司法書士の監修が必要な領域)
  • 電子署名そのもの(専用サービスに任せるべき領域)
  • 第三者によるセキュリティ監査(外部の監査人が行う領域)

できることを大きく見せたほうが、受注はしやすくなります。ただ、実務に乗ったあとで「そこは対応できません」となるほうが、お客様にとっての損失は大きい。最初に線を引いておくと、そのぶん残りの範囲に集中できます。

費用と期間の考え方

本件では、最初のご相談から本番稼働まで約1か月、その後に複数ファンド対応とファイル共有サービスとの連携を追加しています。開発費・運用費は案件ごとに異なるためここでは触れませんが、設計の方針として、月額の利用料が積み上がらない形を基本にしています。

本件では、AIの利用料(Claude API)はCJS様が直接契約・直接課金される形にしていて、こちらの保守料に上乗せしていません。使った分だけがそのままお客様のコストになります。新しいSaaSを1つ増やすのではなく、AIの実費だけで回る設計にする、という考え方です。

よくあるご質問

Q. どのくらいの期間でできますか。 本件では、最初のご相談の翌日に動く試作をお見せし、本番稼働まで約1か月でした。規模によって変わりますが、まず動くものを短期間で出して、そこから決めていく進め方は共通です。

Q. いま使っているフォルダやExcelを変える必要はありますか。 ありません。本件でも、ファイル共有サービスのフォルダ構成と、資料を置く運用はそのままです。変えたのは「人が転記する」工程だけです。

Q. AIが数字を読み間違えたらどうなりますか。 反映される前に、読み取り結果を一覧で確認する画面が入ります。自動で対応づけできなかった項目は分けて表示されます。評価額の確定など、判断が必要なところは人が行う設計です。

Q. データは社外に出ますか。 本件では、ログインした組織のデータ以外は表示も取得もできない構造にしています。誰がいつ何を操作したかの記録も残ります。案件によっては、パソコン内だけで完結して外部通信を持たないアプリとして作ることもあります。

Q. ランニングコストはどのくらいかかりますか。 案件によりますが、月額の利用料が積み上がらない設計を基本にしています。本件ではAIの利用料はお客様が直接契約されており、こちらの保守料に上乗せしていません。

Q. ベンチャーキャピタル以外でも使えますか。 仕組みは同じです。「紙やPDFを見ながら人が表に打ち込んでいる」工程があれば、業種を問わず同じ形で置き換えられます。Central AXでは請求書処理、レシートからの経費入力、月次勤怠の集計などでも同じ作り方をしています。

こんな課題をお持ちの方へ

次のどれかに当てはまるなら、この事例と同じ形が使えます。

  • 資料は集まっているのに、数字にするところで人手が要っている
  • 毎月の報告資料を、そのたびに集計し直している
  • PDFやExcelの中身を、人がシステムやスプレッドシートに打ち直している
  • 財務・個人情報を扱うので、クラウドに全部載せるのは避けたい
  • 新しいSaaSの月額を、これ以上増やしたくない

ベンチャーキャピタルに限らず、投資・会計・管理部門の多くで同じことが起きています。Central AXは名古屋を拠点に、東海エリアの企業のAI導入を支援しています。今のフォルダ構成や運用を変えないまま、その転記工程だけをAIに置き換える形で開発しています。

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