AI人材の育成は、エンジニアを採用することでも、全社員に一度研修を受けさせることでもありません。中小企業にとって現実的なのは、業務をよく知っている社員1〜3人を、AIを業務で使いこなし、周りに広げられる人に育てることです。この記事では、その始め方を、育てる人材像・対象者の選び方・4つの段階・育ったかを確かめる方法の順にまとめます。
先に結論
- 中小企業が社内で育てるべきAI人材は「AIを作る人」より、「業務でAIを使いこなし、社内に広げる人」。国のデジタルスキル標準でいう「ビジネスアーキテクト」に近い役割
- IPA「DX動向2025」では、DXに取り組む企業の85.1%がDXを進める人材の「量」が足りないと答え、41.5%が「戦略上必要なスキルやそのレベルが定義できていない」ことを人材確保の課題に挙げている。育成は「どんな人を、何ができるまで育てるか」を決めるところから始まる
- 最初の育成対象は、AIを使いたい業務を自分で担当していて、周りに教えられる社員1〜3人
- 育成は「対象業務を1つ決める → 担当者が使い方をつくる → 部署に広げる → 社内講師になる」の4段階で、Central AXの目安では半年〜1年
- 研修の効果は、研修前と3か月後・6か月後に同じ指標を測って確かめる。人が育ったかは、つくった使い方が部署で使われ、他の人に教えられているかで確かめる
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中小企業が育てるべきAI人材は「業務で使いこなし、社内に広げる人」
AI人材と聞くと、AIを開発するエンジニアやデータサイエンティストを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、生成AIが仕事の道具になった今、中小企業が社内でまず育てたいのは、自社の業務のどこにAIを使えばよいかを決め、実際に使って成果を出し、その方法を周りに広げられる人です。
経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が定めるデジタルスキル標準は、全社員向けの「DXリテラシー標準」と、DXを進める人材向けの「DX推進スキル標準」の2つでできています。DX推進スキル標準は人材を類型に分けていて、2026年4月16日に公表されたver.2.0では、データマネジメントの類型が新しく加わり6類型になりました。中小企業のAI活用に当てはめると、次のように整理できます。
| 中小企業のAI人材の役割 | 主な仕事 | デジタルスキル標準で近いもの | 中小企業での確保の仕方 |
|---|---|---|---|
| AIを業務で使いこなし、社内に広げる人 | AIを使う業務を決め、使い方をつくり、周りに教える | DX推進スキル標準のビジネスアーキテクト | 社内で育てる(この記事の中心) |
| AIで資料・発信物をつくる人(全社員) | 提案資料や社内文書の下書きをAIでつくる | 全社員向けのDXリテラシー標準 | 全社員の基礎として身につける |
| データを整え、分析する人 | 社内データを集めて整え、AIで分析する | データサイエンティスト、データマネジメント | 業務量に応じて育てるか外部に頼む |
| AIの仕組みを作る人 | 社内システムとAIをつなぐ、ツールを作る | ソフトウェアエンジニア | 外部に頼むことが多い |
| AIを安全に使うルールをつくり、守らせる人 | 入力してよい情報やアカウント管理のルールを決め、運用する | サイバーセキュリティ | 社内の担当者を決め、外部の助言を受ける |
表の対応は、デジタルスキル標準の類型をもとにCentral AXが中小企業向けに整理したものです。ビジネスアーキテクトは、DXの目的設定から導入、効果の検証までを、関係者と調整しながら一貫して進める人材とされています。「周りに教える」役割は、中小企業で人数が限られることを考えてCentral AXが加えたものです。
数字で見るAI人材育成の現状:足りないのに、育てる人材像が決まっていない
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」は、日本企業1,535社が回答した調査です。DXを進める人材について、次の数字が出ています。設問ごとに回答した会社の範囲が違い、回答企業の約半数は従業員300人を超える会社です。
| 項目 | 日本企業の回答 | 回答した会社の範囲 | 掲載ページ |
|---|---|---|---|
| DXを進める人材の「量」が不足(大幅に不足+やや不足) | 85.1% | DXに取り組んでいる会社 | 50ページ |
| 人材確保の課題:「戦略上必要なスキルやそのレベルが定義できていない」 | 41.5% | 設問に回答した会社 | 54ページ |
| 目指す人材像を「設定していない」 | 43.5% | 設問に回答した会社 | 57ページ |
| 人材の確保方法:社内人材の育成 | 57.7% | 設問に回答した会社 | 53ページ |
| 育成について「とくに支援はしていない」 | 36.6% | 設問に回答した会社 | 56ページ |
多くの会社が「人が足りない」と感じ、「社内で育てる」と答えている一方で、目指す人材像やスキルを決めていない会社が4割を超えています。AI人材の育成でも、研修を選ぶ前にどんな人を、何ができる状態まで育てるのかを決めておくことが出発点になります。
なお、IPA「DX動向2025」の類型の設問は、デジタルスキル標準の改訂前(5類型)の分け方で聞いています。最も不足している類型として、人材が不足していると答えた会社の43.0%がビジネスアーキテクトを選んでいます(52ページ)。
最初の育成対象は「業務をよく知っていて、周りに教えられる社員1〜3人」
AI人材育成を中小企業で始めるとき、最初の育成対象は1〜3人で十分です。全社員に一度に研修を受けさせると、使う場面がばらばらになり、研修のあとに誰も続けなくなりがちです。
最初の1〜3人は、次の条件で選びます。
- AIを使いたい業務を、自分で担当している:営業なら提案書、経理なら集計、総務なら社内文書など、毎週くり返している業務がある人
- 業務の手順を言葉で説明できる:AIに任せる部分と、人が確かめる部分を分けられる人
- 周りに教えることをいとわない:自分が使えるようになったあと、同じ部署の人に教えられる人
- ITが得意かどうかは問わない:生成AIを業務で使うのに、プログラミングの知識は必要ありません。生成AIは日本語の指示で動きます
1つ目の条件は、人材開発支援助成金を使うときにも関係します。2026年8月3日の改正で、事業展開等リスキリング支援コースでは「研修の内容に沿って受講者を選んでいるか」が確認されるようになりました(厚生労働省 改正リーフレット)。研修の内容に関係する業務を担当している人(または、今後担当する予定の人)から育成対象を選ぶと、この点にも沿いやすくなります。
AI人材育成の4つの段階:1〜3人から社内に広げる
中小企業のAI人材育成は、次の4段階で進めます。期間は、育成対象者が週に数時間をAI活用にあてる場合の、Central AXの研修の進め方から置いた目安です。
- 対象業務を1つ決める(2週間程度):育成対象者の業務のうち、毎週くり返していて、時間がかかっているものを1つ選びます。例:提案書の初稿づくり、会議の議事録、月次の集計。この時点で、対象業務の今の作業時間を記録しておきます
- 担当者が研修で使い方をつくる(1〜2か月):対象業務を題材にした研修を受け、AIへの指示文のひな形や、確認の手順をつくります。一般的な例題ではなく、自社の資料・データで練習することが大切です
- 同じ部署に広げる(2〜3か月):担当者がつくったひな形と手順を、同じ部署の人が使えるようにします。担当者は質問に答える役になります
- 社内講師として他の部署に教える(3〜6か月):担当者が、別の部署の業務に当てはめる手伝いをします
人材開発支援助成金を使う場合は、第1段階と第2段階の間に、研修開始日の1か月前までに計画届を労働局へ出す期間が入ります。第1段階で研修会社を決め始め、研修開始の2か月前までに決めておくと安全です。
最初から全部署で同時に始めるより、1つの業務で成果を出してから広げるほうが、社内の納得も得やすくなります。AIを使い始める業務の選び方は生成AIは何から始めるべきかでも解説しています。
AI人材が育ったかを確かめる方法:研修の効果と、人の成長を分けて見る
AI人材の育成がうまくいっているかは、「研修の効果」と「人が育ったか」の2つに分けて確かめます。
研修の効果は、研修前と3か月後・6か月後に同じ指標を測って確かめます。 指標は、週あたりの利用者率、1業務あたりの所要時間、手戻り率(差し戻しや修正の回数)、社内での事例共有件数の4つです。利用者率だけは上がりやすく当てにならないため、4つを並べて見ます。研修前の数字を記録しておかないと、あとで比べられません。指標ごとの測り方は生成AI研修の効果測定で解説しています。
人が育ったかは、育成対象者が次の段階に進めているかで確かめます。
| 確かめること | 見る段階 |
|---|---|
| 対象業務のひな形と確認手順を、育成対象者が自分でつくれたか | 第2段階の終わり |
| そのひな形と手順を、同じ部署の人が使っているか | 第3段階 |
| 育成対象者が、他の部署の人に使い方を教えられたか | 第4段階 |
3つ目まで進めば、その社員は「業務でAIを使いこなし、社内に広げる人」になったと言えます。第4段階は育成の開始から半年〜1年かかるため、6か月後の測定の時点ではまだ途中のこともあります。
AI人材育成の研修と助成金:2026年8月の改正後の組み方
AI人材育成で外部の研修を使うときは、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースが使える場合があります。中小企業の場合、条件を満たせば、受講料(税込)の75%と、勤務時間内の受講1時間あたり1人1,000円が支給されます。
主な条件は、受講者が雇用保険に入っている従業員であること、研修時間が合計10時間以上あること、研修開始日の1か月前までに計画届を出すこと、受講者ごとに研修時間の8割以上に出席することなどです。研修費の助成には1人あたりの上限があります。このコースは令和8年度(2027年3月31日)までの時限措置と公表されているため、半年〜1年の育成計画を立てるときは期限にも注意が必要です。
2026年8月3日の改正で、汎用的なプロンプトの書き方や、AI・DXの概要を学ぶだけの研修は対象外になりました(厚生労働省 改正リーフレット)。AI人材育成の研修では、育成対象者が担当する業務を題材にした研修を組むことで、育成の成果と助成金の条件の両方に沿いやすくなります。
- 検討中の研修が対象になりそうかは、助成金の対象チェック(8問・約1分)で確かめられます
- 受講料・時間・人数から実質負担を出すときは、助成金計算機が使えます
- 研修会社を選ぶときの基準は、AI研修の選び方とおすすめの条件にまとめています
AIエージェントが広がると、AI人材の役割はどう変わるか
複数の作業をまとめて進めるAI(AIエージェント)を業務に取り入れる会社も出てきています。AIエージェントを使うと、AIに1回ずつ指示を出して答えを受け取る使い方から、一連の作業をまとめて任せる使い方に近づきます。
Central AXでは、AIエージェントが広がるほど、AI人材にはどの仕事をAIに任せるかを決め、任せた結果が正しいかを確かめる役割が増えると考えています。この役割に必要なのは、プログラミングの知識よりも、業務の手順と「どこで間違いが起きやすいか」を知っていることです。業務をよく知る社員をAI人材に育てるという考え方は、AIエージェントを使う場面でも生きると見ています。
Central AXのAI人材育成の支援
Central AX(株式会社Central AX、名古屋市)は、中小企業のAI人材育成を、業務を題材にした研修で支援しています。
- 生成AI研修:1人25万円(税別)。対象の部署と業務を事前のヒアリングで決め、その業務でAIを使う手順を中心に組み立てます
- Claude Code研修:1人30万円(税別)。エンジニアでない人でも、集計・転記などの手作業の自動化を目指す研修です。AIの仕組みづくりを外部に頼む前に、社内でできる範囲を広げたい会社に向いています
- 研修後のフォロー:実際に使い始めてから出てくる質問に答え、研修資料一式をお渡しします
- 対応地域:名古屋を拠点に全国対応。対面・オンラインのどちらも可能です
人材開発支援助成金を使う場合は、改正後の条件に合うように、対象の業務と受講者を決めてからカリキュラムを作ります。料金は料金プラン、実例は導入事例で確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q. AI人材とはどんな人ですか?
A. 中小企業にとってのAI人材は、AIを開発する人だけではありません。自社の業務のどこにAIを使えばよいかを決め、実際に使って成果を出し、その方法を周りに広げられる人です。経済産業省とIPAのデジタルスキル標準では、DX推進スキル標準の「ビジネスアーキテクト」に近い役割です。IPA「DX動向2025」では、DX人材が不足している会社の43.0%が、最も不足している類型としてビジネスアーキテクトを挙げています。
Q. AI人材育成は何人から始めればよいですか?
A. 中小企業なら、AIを使いたい業務を自分で担当していて周りに教えられる社員1〜3人から始めるのが現実的です。1つの業務で成果を出してから同じ部署に広げ、最後に社内講師として他の部署に教える4段階で、Central AXの目安では半年〜1年かかります。
Q. AI人材を育てるのにプログラミングの知識は必要ですか?
A. 生成AIを業務で使いこなし、社内に広げる役割であれば、プログラミングの知識は必要ありません。生成AIは日本語の指示で動きます。必要なのは、業務の手順を言葉で説明でき、AIの答えが正しいかを確かめられることです。
Q. AI人材が育ったかはどう判断すればよいですか?
A. 研修の効果と人の成長を分けて確かめます。研修の効果は、研修前と3か月後・6か月後に、利用者率・所要時間・手戻り率・事例共有件数の4つを測って比べます。人が育ったかは、育成対象者が自分で業務の使い方をつくり、それが部署で使われ、他の部署の人に教えられるところまで進んだかで判断します。
Q. AI人材育成の研修に助成金は使えますか?
A. 人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースが使える場合があります。2026年8月3日の改正で、汎用的なプロンプト研修やAI・DXの概要研修は対象外になったため、受講者が担当する業務を題材にした研修を組む必要があります。このコースは令和8年度(2027年3月31日)までの時限措置と公表されています。
まとめ
- 中小企業が社内で育てるべきAI人材は、業務でAIを使いこなし、社内に広げる人。デジタルスキル標準のビジネスアーキテクトに近い役割
- IPA「DX動向2025」では、DXに取り組む企業の85.1%が人材の量が足りないと答え、目指す人材像を「設定していない」会社は43.5%。育成は人材像を決めるところから始まる
- 最初の育成対象は、AIを使いたい業務を担当していて周りに教えられる社員1〜3人
- 育成は「業務を1つ決める → 使い方をつくる → 部署に広げる → 社内講師になる」の4段階。Central AXの目安では半年〜1年
- 研修の効果は研修前と3か月後・6か月後の4指標で、人の成長は段階を進めているかで確かめる
→ AI人材の育成について相談したい方はこちら(初回30分無料)
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