「図面をAIに読ませれば早いのは分かるけれど、やっていいのか社内で誰も答えられない」「客先から預かった仕様書は入れてはいけない気がするが、根拠を説明できない」——こういう状態ではないでしょうか。決まっていない間も、社員はそれぞれの判断で生成AIを使い続けています。

図面、3Dデータ、要求仕様書、取引先の社名と型番、原価。製造業固有のこの扱いが書かれていない汎用ひな形は、現場にとって「自分には関係のない紙」です。

この記事では、製造業の機密情報を入力OK・条件付き・NGに分ける線引き、取引先との契約で先に確認すべき点、A4一枚で現場に配れるガイドラインの作り方を整理します。情報システム担当が専任でいない、愛知・岐阜・三重・静岡の中小製造業を想定しています。

工場に隣接する事務所の机に、紙の図面とノートPCが並んで置かれている。窓の外には稼働中の工場棟が見えている

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なぜ汎用の生成AIガイドラインは製造業で通用しないのか

一般的なひな形の禁止事項は「個人情報を入力しない」「機密情報を入力しない」「出力をそのまま使わない」に集約されます。目の前の図面PDFが「機密情報」に当たるかを誰も判定できないため、現場の判断には落ちません。

製造業のガイドラインが難しいのは、判断が二階建てになっているからです。

  1. 自社の秘密かどうか。 図面、加工条件、原価、治具のノウハウ。扱いは自社の判断で決められます。
  2. 他社から預かった秘密かどうか。 客先支給の図面や要求仕様書。扱いは契約でどう約束したかで決まります。

一般的なひな形が想定しているのは1だけで、製造業でトラブルになりやすいのは2のほうです。

判断の土台になるのが、経済産業省の営業秘密管理指針(令和7年3月改訂)です。不正競争防止法で営業秘密として保護されるには秘密管理性・有用性・非公知性の3つが必要とされます。実務のカギは秘密管理性で、社内で「これは秘密です」と示す措置が前提です。何も決めていない状態は情報を守る側としても弱くなりかねず、ガイドラインづくりは自社の情報を秘密として管理していると示す作業でもあります。なお同法の罰則がどのケースに及ぶかは事案ごとの判断になるため、具体的には弁護士に確認してください。

人事や健康の情報は、個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起(2023年6月)が基準です。入力が目的の達成に必要な範囲か、機械学習に利用されないかの確認を求めています。汎用ルールで足りるのはここまでで、図面や型番の線引きは自社で決めるしかありません。

製造業の機密情報を「入力OK/条件付き/NG」に分ける

製造業でよく出てくる情報を分類したたたき台です。自社の実情に合わせて増減させてください。

製造業の情報を3列に分類した図。入力してよい(OK)は一般的な技術知識の質問(材料の特性、熱処理の一般論、規格)と社外に出す文章の下書き(会社案内、採用ページ、あいさつ文)で、自社の情報を含まない領域として積極的に使ってよい範囲を明記しておく。条件付きは自社設計の図面・3Dモデル(学習利用がオフの法人プランを確認)、品質不具合・是正処置の報告書(客先名・型番・ロット番号を伏せる)、NCプログラム・加工条件(担当を限定する)、自社の作業手順書・段取り手順(客先固有の情報が混ざっていないか確認)、社内会議の議事録(客先名・金額を伏せる)。入力しない(NG)は客先支給の図面・3Dデータ(契約確認が済むまで入れない)、客先支給の要求仕様書、取引先名と型番・数量(組み合わせで取引関係が特定される)、見積・原価・工数単価、人事・労務・健康情報。分類は3つに絞り、迷ったものは条件付きに置いて誰に聞けばよいかを書いておく

情報の種類 具体例 判断 条件・理由
客先支給の図面・3Dデータ 客先から受け取った2D図面PDF、STEPデータ NG 契約確認が済むまで入れない。第三者提供や再委託の条項に触れる可能性がある
客先支給の要求仕様書 品質要求書、試作依頼書、RFQ一式 NG 同上。開発中の製品情報が含まれることが多い
自社設計の図面・3Dモデル 自社製品・自社治具の図面 条件付き 学習利用がオフの法人向けプランを確認し、社内で公開範囲を決める
取引先名と型番・数量の組み合わせ 「A社向け品番○○を月○個」 NG 単体では機密でなくても、組み合わせで取引関係が特定される
見積・原価・工数単価 見積根拠、材料費、チャージレート NG 漏れた際の影響が最も大きい。社外向け見積文面の体裁を整える用途に限る
品質不具合・是正処置の報告書 客先提出用の不具合報告 条件付き 客先名・型番・ロット番号を伏せ、現象と原因だけを扱う
NCプログラム・加工条件 プログラム、切削条件、熱処理条件 条件付き 自社のノウハウそのもの。社外秘扱いを明示し、担当を限定する
自社の作業手順書・段取り手順 標準作業書、朝礼資料 条件付き 客先固有の情報が混ざっていないか確認してから使う
社内会議の議事録 生産会議、原価会議のメモ 条件付き 客先名・金額を伏せる。要約用途は効果が出やすい
一般的な技術知識の質問 材料の特性、熱処理の一般論、規格の意味 OK 自社情報を含まない質問。積極的に使ってよい領域
社外に出す文章の下書き 会社案内、採用ページ、あいさつ文 OK どうせ公開する情報。生成AIが最も役立つ用途
人事・労務・健康情報 従業員の評価、健診結果、面談記録 NG 個人情報。前掲の注意喚起を参照

分類は3つに絞るのがコツです。2分類では迷った情報が全部NG側に寄って使われなくなり、5段階では誰も覚えません。迷ったものは条件付きに置き、そこに「誰に聞けばよいか」を書いておく。これだけで運用が回り始めます。

条件付きの実務は、要するに置き換えです。客先名を「A社」、品番を「部品X」に直し、寸法や公差を伏せて形状の相談だけにする。この一手間で扱える情報がかなり増えます。手順書や図面台帳が未整理なら、製造業のAI活用はデータ整備からが先です。

取引先から預かった情報は、まず契約の確認から

客先支給の図面を生成AIに入力してよいかどうかは、AIの設定ではなく契約の話です。秘密保持契約(NDA)や取引基本契約には、次のような条項が入っていることがあります。

  • 秘密情報を第三者に開示・提供しない
  • 第三者に業務を再委託する場合は事前に書面で承諾を得る
  • 秘密情報の保管場所・保管方法を指定する(国外サーバーの禁止を含む場合がある)
  • 契約終了時に秘密情報を返還・消去する

クラウド型の生成AIへの入力が「第三者への提供」に当たるかは条項の書き方で変わり、一律には言えません。自社の契約書の条項を実際に読んで確認してください。難しければ顧問弁護士か取引先に確認するのが確実です。基準は「取引先に説明して納得してもらえるか」で考えるとぶれません。

取引先から預かった情報を生成AIに入力する前に社内で確認する手順の図。まず「その情報は取引先から預かったものか」を確認し、いいえなら自社の情報として自社で決めた分類表にそって判断する。はいの場合は「契約書に第三者提供・再委託・保管場所などの条項があるか」を確認し、不明・未確認のうちは入力せず、まず自社の契約書を読む。確認できたら条項の内容に沿って扱いを決め、判断に迷うものは顧問弁護士か取引先に確認してから使う。判断の基準は「取引先に説明して、納得してもらえるか」。この図は社内で確認する順番を整理したもので、法的な結論を示すものではない

いわゆる下請法は2026年1月1日から中小受託取引適正化法(取適法)として施行されました。AI利用を直接定める法律ではありませんが、発注側から情報管理体制の確認を求められる場面は増える方向と考えられます。また自動車産業では、日本自動車工業会・日本自動車部品工業会の自動車産業サイバーセキュリティガイドラインのチェックシートで各社が自己評価する仕組みがあり、生成AIの利用ルールの有無が監査で問われる可能性もあります。

ガイドラインづくりの費用と期間の目安

ガイドラインは大きな買い物ではありません。金額は目安で、依頼先や状況により変わります。

進め方 外部費用の目安 社内の工数 期間の目安
自社だけで作る 0円 担当者20〜30時間 1〜2ヶ月
ひな形をもとに作り、顧問弁護士に条項確認だけ依頼 依頼先の顧問料の範囲内、または都度の相談料 担当者10〜15時間 3〜4週間
外部の支援を入れて分類表まで作り込む 支援会社により幅がある 担当者5〜10時間 2〜4週間
ガイドライン整備と社員教育をセットで行う 当社の生成AI研修は1名25万円 受講者の研修時間+担当者5時間 1〜2ヶ月

いちばん高くつくのは「作らないまま使い続ける」選択で、事故が起きたときの取引先への説明コストは見積もれません。

自社で作る場合は、棚卸しに数時間、分類の議論に数回の会議、文書化に数日ほどです。ChatGPTの社内利用ルールの作り方のひな形に製造業の分類表を足す形が最短で、漏洩リスクの整理はChatGPTからの情報漏洩リスクと対策にまとめています。

A4一枚に収める作り方と、つまずきやすいところ

現場で守られるガイドラインの共通点は、短く、具体例が載っていて、現場の言葉で書かれている。この3つです。規程本体は総務が持ち、現場にはA4一枚の抜粋を配る二段構えが現実的です。

作る手順は5ステップです。

  1. 棚卸しの会議を1回開く。 製造・品質・営業・総務から1人ずつ集め、「外に出たらまずい」情報を挙げます。
  2. 3分類に振り分ける。 議論が割れたものは全部「条件付き」に入れて先に進めます。完璧を目指すとここで止まります。
  3. 具体例を現場の言葉で書く。 「機密情報」ではなく「客先支給の図面PDF」「A社向けの品番一覧」と、実際の呼び方で書きます。
  4. 相談窓口と例外の手順を決める。 迷ったら聞く相手を1人決めて名前を書きます。製造部か総務の中堅が窓口、最終判断は経営者が現実的です。見直し頻度(月1回→半年に1回)も決めます。
  5. 配って、使い方を教える。 全社集会で読み上げるより、部署ごとに30分、実際の業務を題材に手を動かすほうが定着します。

つまずきやすいところは次のとおりです。

よくある失敗 現れる兆候 対策
汎用のひな形をそのまま配布した 誰も質問してこない。運用の話題が出ない 自社で実際に扱っている書類の名前を本文に入れる。抽象語を削る
禁止事項だけを並べた 社員が個人のスマホやアカウントで使い始める OKの領域を明記する。「一般的な技術の質問は自由」と書く
分類が細かすぎる 現場が「よく分からないので使っていません」と言う 3分類に統合し、A4一枚に収める
相談窓口が決まっていない 判断が必要な案件が全部止まる、または各自が勝手に判断する 窓口担当の氏名と連絡先を明記し、返答の目安時間も書く
客先の契約条項を確認していない 「たぶん大丈夫」という言葉が会議で出る 主要取引先の契約書を洗い出し、該当条項を一覧にする
配布して終わりにした 半年後、誰もガイドラインの場所を思い出せない 見直しの日付を先に決めてカレンダーに入れ、新入社員教育に組み込む

とくに危ないのが「禁止事項だけ」の失敗です。禁止しても利用は止まらず、個人アカウントでの無断利用(シャドーAI)が管理の外で広がります。詳しくは生成AIを禁止すると何が起きるか|シャドーAIのリスクへ。

ひな形を配るだけでは守られない|Central AXのアプローチ

自社で作れる会社とそうでない会社の分かれ目は、文書力ではなく自社の情報がどこにどう置かれているかを把握している人がいるかです。ここが曖昧なままだと、分類表は絵に描いた餅になります。

Central AXはガイドライン整備を、文書づくりではなく業務の確認作業として進めます。訪問して実際のファイルとフォルダを一緒に見ながら線引きを決めるのは、オンラインだけでは一般論の文書になりがちだからです。

配った時点でガイドラインは機能していません。当社の生成AI研修(1名25万円)は実際の業務を題材にしたハンズオン形式で、自社のOK・NGの線引きを組み込めます。「この図面は入れていいのか」をその場で扱うほうが、規程を10回読ませるより確実です。研修は愛知・岐阜・三重・静岡へ訪問して実施しています。

その先では、社内文書だけを参照して答えるAIのPoC(50〜200万円)や本格実装(200万円〜)もお受けしています。

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東海の製造業だからこその事情

愛知県の製造品出荷額等は58兆218億円(2023年)で全国シェアは約15.5%、47年連続で日本一です(出典:愛知県公式ページ/経済産業省「経済構造実態調査」)。つまり東海は、他社から預かった情報を大量に抱えている会社が多い地域です。

自社製品を持つメーカーなら線引きは自社で決められますが、部品加工・金型・治具など受託中心の会社では、社内の図面の多くが客先のものです。東京のIT企業向けのひな形が合わないのはこのためです。

また、現場に立つ社員が大半の会社では、社内ポータルにPDFを置いても届きません。休憩室に貼る・朝礼で配る伝え方が前提で、A4一枚を強く推すのはこのためです。

Central AXは名古屋に拠点があり、刈谷や豊田の部品メーカー、岐阜の金型工場、四日市の工場まで車で訪問できます。愛知県の支援制度は愛知県の中小企業が使えるAI導入の補助金・助成金に、活用パターンは名古屋・愛知の製造業の生成AI活用に整理しました。

よくある質問

Q. 図面を生成AIに読ませるのは、絶対にやってはいけないのでしょうか。 A. 一律に禁止する必要はありません。自社図面なら、学習に使われない設定の法人向けプランで、担当者を限定して試せます。客先支給の図面は、まず契約の条項を確認してからにしてください。

Q. 法人契約をすれば、何を入力しても大丈夫ですか。 A. 法人向けプランで解決するのは、入力が学習に使われるかという論点だけです。契約上、情報を外部サービスに預けてよいかと、社内の誰が扱ってよいかの問題は別に残ります。法人契約だけで線引きが不要になるわけではありません。

Q. ガイドラインに違反した社員が出たら、どうすればよいですか。 A. 罰するより、報告したら責めない方針を明示して、何が起きたかを速やかに把握できる状態にするほうが大事です。営業秘密の持ち出しは不正競争防止法の罰則や就業規則との関係もあるため、具体的には弁護士や社会保険労務士に確認してください。

Q. 情報システムの担当者がいません。誰が作って、誰が管理すればよいですか。 A. 総務か製造部の中堅社員が窓口、経営者が最終判断という形が現実的です。専門知識より、社内の書類の在りかを知っていることが重要です。作成に1〜2ヶ月、その後は半年に1回の見直しを想定してください。

まとめ

決めるべきことは一つです。目の前の情報を生成AIに入れてよいかを、現場が自分で判断できる状態にすること。必要なのは分厚い規程ではなく、実際に使っている書類の名前が並んだ分類表です。自社の秘密は自社で決め、預かった情報は契約に従う。A4一枚に収めて相談先を氏名で明記し、実務を題材に使い方を教えて、はじめて運用が始まります。

自社の場合はどこから手をつけるか、初回30分の事業相談は無料です。図面や仕様書の管理状況をお聞きして、線引きの決め方から具体的にお話しします。

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