「ChatGPTを業務で使わせたいが、情報漏洩が怖い」「そもそも入力した内容はどこに行くのか」——生成AIの導入を検討する経営者・情報システム担当の方が、最初に突き当たる不安です。
先に結論を言うと、リスクは実在します。実際に大企業で機密情報の入力事案が起きていますし、ChatGPT側のバグで他人の情報が見えた事故も起きました。ただし、リスクの正体を分解すると、いずれも対策可能なものです。そして「怖いから全面禁止」は、実は一番危険な選択です。
この記事では、実際に起きた事例と、企業がとるべき対策を、名古屋でAI実装支援を行う当社が整理します。
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実際に起きたこと:2つの有名事例
事例1:Samsungの機密コード入力(2023年)
2023年3月、Samsungの半導体部門が社内でChatGPT利用を許可したところ、約20日間で機密漏洩にあたる事案が少なくとも3件確認されたと報じられました。内容は、半導体関連プログラムのソースコードを入力してエラー解決を尋ねたものが2件、会議の録音をもとに議事録作成を依頼したものが1件。その後、同社は従業員の生成AI利用を禁止したと報じられています(出典:PC Watchほか)。
重要なのは、これが外部からの攻撃ではなく、社員の善意の利用で起きたことです。仕事を早く終わらせようとした社員が、業務情報をそのまま入力してしまった——どの会社でも明日起こりうる構図です。
事例2:ChatGPTの履歴表示バグ(2023年3月20日)
ChatGPT側の事故も起きています。2023年3月20日、利用ライブラリのバグにより、一部のユーザーに他人のチャット履歴のタイトルなどが表示される障害が発生しました。さらにOpenAIは、特定の9時間内にアクティブだった有料会員の1.2%について、氏名・メールアドレス・住所・クレジットカードの下4桁などが他のユーザーに見えた可能性があると公表しています(出典:OpenAI公式報告)。
その後この種の大きな事故は繰り返されていませんが、「クラウドサービスである以上、事業者側の事故はゼロにはならない」という前提は持っておくべきです。
リスクの正体は3つに分解できる
事例を踏まえると、ChatGPTの情報漏洩リスクは次の3つに整理できます。
| リスク | 中身 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 1. 入力データの学習利用 | 個人向けプランでは、入力内容がAIの学習に使われ得る | 法人プラン/オプトアウト設定 |
| 2. サービス側の事故・バグ | 履歴表示バグのような事業者側のトラブル | 機密情報を入力しない運用 |
| 3. シャドーIT | 会社が禁止した結果、社員が個人アカウントでこっそり使う | 禁止ではなくルール整備 |
1について:ChatGPTの個人向けプランは、初期設定のままだと入力内容がモデルの学習に使われる可能性があります。設定の「データコントロール」から学習利用をオフにできますが(OpenAI公式FAQ)、社員全員が正しく設定している保証はありません。一方、法人向けのTeam/Enterpriseプランは、入力データを学習に使わないことが標準仕様です。業務利用なら法人プラン、が原則です。
3が最も見落とされがちです。「全面禁止」にした会社で起きるのは、利用ゼロではなく、個人のスマホでの「見えない利用」です。禁止された利用は報告されないため、何が入力されたか会社は把握すらできません。Samsungの事例が示すのは「許可したから漏れた」ではなく、「ルールと教育なしで解禁すると漏れる」です。
国のガイドラインも「禁止」ではなく「適正利用」
公的機関の姿勢も確認しておきましょう。個人情報保護委員会は2023年6月に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表し、個人情報をプロンプトに入力する際の注意を促しました。2024年4月には総務省・経済産業省が「AI事業者ガイドライン」(第1.0版、以後改定あり)を公表。IPAも企業向けに「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」を公開しています。
いずれも共通するのは、生成AIを禁止するのではなく、リスクを理解した上で適正に利用するための整備を求めていることです。国のスタンスがすでに「使う前提」である以上、企業側も「使わせない」ではなく「安全に使わせる」への転換が必要です。
企業がとるべき5つの対策
当社が中小企業におすすめしている対策は、次の5つです。上から順に効果が大きく、すべて今月中に着手できます。
対策1:業務利用は法人プランに寄せる。 Team/Enterpriseプランは入力データが学習に使われず、通信・保存の暗号化や監査対応も整っています。月額費用はかかりますが、「漏れたときのコスト」と比べれば安い保険です。
対策2:入力してはいけない情報を明文化する。 顧客情報・個人情報・取引先との秘密情報・未公開の財務情報。「機密情報はダメ」という曖昧な言い方ではなく、自社の業務に即した具体例で示すことが重要です。
対策3:利用ルールを1枚にまとめて配る。 JDLA(日本ディープラーニング協会)が無料のひな形を公開しており、これをベースに半日で作れます。作り方とそのまま使えるひな形はChatGPT社内利用ルールの作り方にまとめました。
対策4:全社員に1〜2時間の教育をする。 ルールは配るだけでは読まれません。「なぜソースコードを貼ってはいけないのか」を事例つきで理解した社員は、ルールにない場面でも正しく判断できます。

対策5:相談窓口と見直しサイクルを決める。 「これは入力していいか?」を聞ける相手を決め、ルールは半年に一度見直す。生成AIの仕様は変わり続けるため、作りっぱなしのルールはすぐ形骸化します。
「安全に使う環境づくり」ごと支援しています
株式会社Central AXは、名古屋を拠点に生成AI研修とAI実装支援を行っています。私たちの生成AI研修(25万円/人)では、活用スキルだけでなく、この記事で書いた入力ルール・プラン選定・社内ガイドライン整備までをセットで扱います。「使えるようになる」と「安全に使える」は、本来ワンセットだからです。
東海エリアの会社であれば、訪問して現場の業務と情報の流れを見た上で、「この業務のこの情報は入れてよい/ダメ」まで具体化します。セキュリティの議論は一般論では終わらず、自社の業務に落とし込んで初めて機能します。
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よくある質問(FAQ)
Q. 無料版ChatGPTを業務で使うのは絶対NGですか?
A. 機密情報・個人情報を扱わない用途(公開情報の要約、一般的な文章の下書きなど)に限定すれば、リスクは小さくできます。ただし用途の線引きを社員任せにしないため、ルールの明文化が前提です。
Q. オプトアウト設定をすれば無料版でも安全ですか?
A. 学習利用のリスクは下がりますが、設定が個人任せになる点と、アカウント管理・監査ができない点が残ります。組織的な業務利用なら法人プランをおすすめします。
Q. ChatGPT以外のAI(Claude、Geminiなど)でも同じ考え方ですか?
A. 基本は同じです。「個人向けプランと法人向けプランでデータの扱いが違う」構図は主要サービスに共通なので、業務利用は法人プラン・入力ルール・教育の3点セットで考えてください。
Q. 一度入力してしまった機密情報は取り消せますか?
A. 完全な取り消しは基本的にできないと考えるべきです。だからこそ「入力前に止める」仕組み(ルールと教育)に投資する価値があります。万一の際は、該当サービスのデータ削除依頼と、自社の漏洩時対応フローに沿った対処を行ってください。
まとめ:怖がって禁止ではなく、理解して整備する
ChatGPTの情報漏洩リスクについて整理しました。
- リスクは実在する。Samsungの入力事案も、サービス側のバグも実際に起きた
- リスクの正体は「学習利用」「サービス側の事故」「シャドーIT」の3つに分解でき、いずれも対策可能
- 最悪の選択は全面禁止。見えない利用を生み、把握も教育もできなくなる
- 対策は5つ:法人プラン・入力禁止情報の明文化・ルール配布・全社員教育・相談窓口と見直し
生成AIは、正しく整備すれば強力な道具であり、放置すれば漏洩の入り口です。分かれ目は道具の側ではなく、会社側の整備にあります。「怖いから止まっている」状態こそが一番のリスク——まずはルール1枚と教育1回から始めてください。