「生成AI研修に助成金が使えると聞いたが、何をいつ出せばいいのか分からない」「調べたらコースが7つも出てきて、どれが自社に当てはまるのか判断できない」——研修の導入を決めたあと、多くの会社がここで止まります。

人材開発支援助成金は、中小企業なら研修費用の最大75%と、受講中の賃金の一部が戻ってくる制度です。ただし計画届の提出には「訓練開始日の1か月前まで」という絶対に動かせない期限があり、これを過ぎるとその研修はもう対象になりません。研修会社に見積もりを取ってから慌てて調べ始めると、間に合わないことがあります。

この記事では、厚生労働省が公開している令和8年5月14日版のパンフレットにもとづいて、どのコースを選ぶか・いくら戻るか・何をいつ出すか・どういう研修が対象外になるかを、順番に整理します。東海エリアの中小企業の方が、今日から逆算してスケジュールを組める状態になることを目指しています。

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相談スペースで、担当者が卓上カレンダーを指しながら経営者に研修日程を説明している様子。テーブルには申請書類の束

なお制度は年度ごとに改正されます。この記事の数字は2026年7月時点のものです。実際の申請前には必ず厚生労働省の人材開発支援助成金ページで最新版を確認してください。

まずどのコースを使うか——生成AI研修で使える3つ

人材開発支援助成金には現在7つのコースがありますが、生成AI研修で現実的に使えるのは次の3つです。

コース 対象になる訓練 特別な要件 使いどころ
人材育成支援コース 職務に関連した10時間以上のOFF-JT なし 最も要件がゆるい。まずここを検討
事業展開等リスキリング支援コース 事業展開・DX化などに向けた10時間以上のOFF-JT 「事業展開」「DX化」等に該当することが必要 助成率が最も高い
人への投資促進コース(定額制訓練) サブスク型のeラーニング なし 受け放題サービスで学ばせる場合

生成AI研修は多くの場合、社内のDX推進という文脈で説明できるため、事業展開等リスキリング支援コースが第一候補になります。ここでいうDXとは、厚生労働省の定義では「デジタル技術を活用して業務効率化、製品・サービス・ビジネスモデルの変革等により競争上の優位性を確立すること」です。

ただしひとつ注意があります。このコースはパンフレットに「令和4年〜8年度の期間限定の助成金として創設しました」と明記されており、助成率表の脚注にも令和8年度末までの時限措置と書かれています。令和9年度以降どうなるかは、現時点で公表されていません。使うつもりなら、今年度中に動くほうが確実です。

いくら戻るのか(中小企業の場合)

金額の考え方は「経費助成(研修費の何%か)」と「賃金助成(受講中の時給いくらか)」の2階建てです。

コース 経費助成率 賃金助成(1人1時間) 経費の限度額(1人1訓練)
事業展開等リスキリング支援コース 75% 1,000円 10〜100時間未満で30万円、100〜200時間未満で40万円、200時間以上で50万円
人材育成支援コース 45%(賃金要件等を満たせば60%) 800円(同1,000円) 10〜100時間未満で15万円、100〜200時間未満で30万円、200時間以上で50万円
人への投資促進コース(定額制訓練) 60%(賃金要件等を満たせば75%) なし 1人1か月あたり2万円

たとえば当社の生成AI研修(1人25万円・税別)を5名が受講し、リスキリング支援コースで支給決定された場合を考えます。経費助成の対象になるのは消費税を含めた金額です(支給要領で消費税が支給対象経費に挙げられているため)。1人あたり27万5,000円の75%で20万6,200円、限度額の30万円には収まるので、5名で103万1,200円が戻る計算になります。これに研修10時間分の賃金助成5万円が上乗せされ、実質負担は29万3,800円(1人あたり約5万8,760円)です。

この金額は御社の業種・資本金・従業員数・受講人数を入れると助成金シミュレーターですぐに試算できます。計算式そのものや受講料別の早見表は人材開発支援助成金はいくらもらえる?計算方法と早見表にまとめました。金額の詳しい前提は生成AI研修の費用相場と助成金活用にも書いています。

ここで見落とされやすい点が2つあります。

ひとつは、eラーニング・通信制で受ける場合、リスキリング支援コースの経費限度額は訓練時間にかかわらず一律15万円になることです(令和8年4月8日の改正で30万円から引き下げられました)。しかもeラーニングは賃金助成の対象外です。「安く済ませようとeラーニングにしたら、助成額も半分以下になった」ということが起こります。

もうひとつは、所定労働時間外や休日に実施した分は賃金助成の対象にならないことです。「業務が終わってから研修」という設計は、助成金の観点では不利になります。

申請の流れ——期限だけは絶対に落とさない

会社側がやることは4ステップです(図の⑤審査・支給は労働局側の工程)。図にすると単純ですが、期限が2か所あり、どちらも過ぎたら取り返せません。

人材開発支援助成金の申請スケジュール。①事前準備(推進者の選任・社内計画)→②職業訓練実施計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出→③訓練の実施→④訓練終了日の翌日から2か月以内に支給申請→⑤審査・支給。②と④が落とせない期限

① 事前準備(計画届を出す日まで)

  • 職業能力開発推進者を選任する(事業所ごとに1名以上)
  • 事業内職業能力開発計画を作り、労働者に周知する

この2つが済んでいないと、そもそも計画届を受け付けてもらえません。初めて申請する会社は、ここに時間がかかります。

② 職業訓練実施計画届の提出(様式第1-1号)

  • 期限:訓練開始日の6か月前から1か月前まで
  • 提出先:事業所の所在地を管轄する都道府県労働局
  • 方法:窓口持参、郵送、電子申請(雇用関係助成金ポータル。GビズIDが必要)

郵送の場合、消印ではなく労働局に届いた日が提出日です。期限ぎりぎりの郵送は避けてください。

主な添付書類は、対象労働者一覧(様式第3-1号)、事前確認書(様式第11号)、訓練カリキュラムや受講案内、外部研修なら教育訓練機関との契約書または申込書の写しなどです。リスキリング支援コースの場合は事業展開等実施計画(様式第1-3号)も必要です。

③ 訓練の実施

計画どおりに実施します。訓練経費は支給申請までに全額支払いを済ませておく必要があります。

なお対象労働者の追加は訓練開始日の前日まで、実施日時や場所の変更は「当初の実施日」と「変更後の実施日」のいずれか早いほうの前日までに届け出が必要です。黙って変えると、その部分が不支給になります。

④ 支給申請(様式第4-2号)

  • 期限:訓練終了日の翌日から2か月以内(厳守)

令和8年5月14日以降は、受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)の提出も必須になりました。

審査は令和7年度以降、支給申請後に一括して行われます。計画届が受理されたことは、支給が確定したことを意味しません。 ここを誤解している会社が少なくありません。

対象にならない研修——ここで落ちる会社が多い

助成金の相談で最も多いつまずきが、「研修の内容が対象外だった」というものです。生成AI研修に関しては、次の記述が決定的に重要です。

リスキリング支援コースのパンフレットには、対象にならない訓練としてこう書かれています。

単にデジタル機器を使用して文章・数値の入力や、書式・レイアウトの変更程度の初歩的な操作を行う内容のみの訓練は対象になりません

単に既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得する場合や、コンサルタントによる指導は、対象になりません

つまり、「ChatGPTの画面の使い方を教えます」というだけの研修は、対象外と判断される可能性があります。 世の中の生成AI研修には、このタイプのものも少なくありません。安い研修を選んだら助成金が使えなかった、という事態は現実に起こり得ます。

対象として認められやすいのは、自社の業務課題に紐づけて、業務プロセスをどう変えるかまで扱う設計です。ツールの操作説明ではなく、職務に必要な知識・技能の習得として組み立てられているかどうかが分かれ目になります。

その他、見落とされやすい対象外の条件を整理します。

条件 内容 対策
実訓練時間が10時間未満 半日研修や2時間セミナーは対象にならない カリキュラムを10時間以上で設計する
時間の数え方 食事を伴う休憩・移動時間は算入しない。予習復習や確認テストも訓練時間に入らない 実質の講義・演習時間だけで10時間を確保する
開講式・オリエンテーション 1計画届あたり累計60分まで 挨拶で時間を稼がない
ビデオを見るだけの講座 eラーニング・通信制を除き対象外 質疑応答や演習を組み込む
講師の要件 専門的な知識・技能を有する講師でないと対象外。自社実施の場合は講師要件確認書(様式第10号)が必須で任意様式は不可 講師の経歴を確認しておく
密接な関係にある者への支払い 令和8年4月8日から、代表者の3親等以内の親族への講師謝金、親会社・子会社からの施設借上費などは経費助成の対象外 発注先の関係性を確認する

なお、自社で企画・主催する社内研修(事業内訓練)は対象になります。外部講師を呼んで自社の会議室でやる形も、事業主が主催していれば事業内訓練です。ただし生産ラインや就労の場で行うものは対象外なので、会議室など業務と切り離せる場所で実施してください。

一般論の限界——「助成金が使える研修」は設計から違う

ここまで制度の話をしてきましたが、実務でつまずくのは制度の理解ではなく、研修の中身と申請書類を同時に成立させることです。

助成金に通る研修には、共通して次の条件が揃っています。

  1. カリキュラムが10時間以上で、演習が入っている——操作説明の羅列ではなく、職務に必要な技能の習得として構成されている
  2. 自社の業務課題と結びついている——「何の業務をどう変えるための訓練か」がカリキュラムの文面から読み取れる
  3. 申請スケジュールから逆算して日程が決まっている——訓練開始日の1か月前を切ってから相談が来ても、その回は助成対象にできない

当社の研修は実業務カスタム型です。事前ヒアリングで対象業務と受講者のレベルを把握し、受講者の実際の業務を題材に手を動かしながら進めます。生成AI研修が1人あたり25万円、業務の自動化まで踏み込むClaude Code研修が1人あたり30万円です。もともと「操作方法だけを教える研修」ではないため、助成金の要件と衝突しにくい設計になっています。

そのうえで、研修の日程を決める段階から申請スケジュールを一緒に逆算します。研修会社が制度を知らないと、この逆算が誰の担当でもなくなり、結果的に間に合わないのです。

そして東海の会社である当社は、名古屋から愛知・岐阜・三重・静岡のどこへでも伺います。 現場を見てカリキュラムを設計できることは、助成金の観点でも有利に働きます。自社の業務課題と訓練内容の結びつきを、書類の上でも具体的に書けるからです。

申請そのものの代行はできませんが(社会保険労務士の業務にあたるため)、カリキュラム・受講案内・訓練時間の内訳など、研修提供側が用意すべき書類は責任を持って揃えます。

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申請先の窓口はどこか(愛知県の場合)

愛知県内の事業所の場合、申請先は次のとおりです。

  • 愛知労働局 あいち雇用助成室 第一係
  • 名古屋市中区錦二丁目14番25号 ヤマイチビル11階
  • TEL 052-688-5758
  • 受付 8時30分〜17時15分(土日祝を除く)

愛知労働局の人材開発支援助成金のページに案内があります。GビズIDを取得すれば電子申請ができるため、原則として窓口に出向く必要はありません。

なお愛知県は、補助金とは別に無料のデジタル人材育成研修も実施しています。県や名古屋市の制度、他の補助金とあわせた全体像は愛知県の中小企業が使えるAI導入の補助金・助成金まとめに整理しました。

よくある質問

Q. 個人でこの助成金を使って研修を受けられますか。 A. できません。人材開発支援助成金は事業主が従業員に訓練を受けさせる制度なので、申請できるのは会社(事業主)です。個人が自分の意思で受講する場合は対象外になります。ただし個人事業主でも、従業員を雇っていれば事業主として申請できます。なお中小企業に当たるかどうかの判定は業種ごとに基準が違うため、人材開発支援助成金はいくらもらえる?計算方法と早見表にまとめました。

Q. 研修の日程がもう決まっています。今から間に合いますか。 A. 訓練開始日の1か月前を過ぎていなければ間に合います。ただし初めて申請する場合は、職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定が先に必要で、ここに数週間かかることがあります。開始日まで1か月半を切っているなら、日程を後ろにずらすことも検討してください。

Q. 申請すれば必ずもらえますか。 A. いいえ。計画届の受理は支給の確定ではなく、審査は支給申請の後に行われます。また助成金は予算の範囲内で支給されるものです。「もらえる前提」で研修費の資金繰りを組むのは避け、いったん全額を支払える計画で進めてください。

Q. 賃金要件を満たすと助成率が上がると聞きました。 A. 人材育成支援コースなどでは、訓練終了後1年以内に対象労働者全員の賃金を5%以上引き上げる(または資格等手当で3%以上)ことで割増が受けられます。ただしこの割増分は別途申請が必要で、労働局から通知は来ません。 要件を満たす賃金を3か月継続して支払った日の翌日から5か月以内に、自分で申請する必要があります。忘れる会社が非常に多い部分です。

Q. 社内の勉強会でも対象になりますか。 A. 事業主が企画・主催するOFF-JTであれば事業内訓練として対象になり得ます。ただし講師が専門的な知識・技能を有すること(講師要件確認書の提出が必要)、生産ラインや就労の場ではない場所で行うこと、10時間以上であることなどの条件を満たす必要があります。自発的な有志の勉強会は業務命令ではないため対象外です。

まとめ

生成AI研修に人材開発支援助成金を使う場合、中小企業なら事業展開等リスキリング支援コースで経費の75%・賃金1,000円/時が目安です。手順としては、①推進者の選任と社内計画の策定 →②訓練開始日の1か月前までに計画届 →③研修の実施 →④終了後2か月以内に支給申請、の4段階になります。

落としてはいけないポイントは3つです。計画届は1か月前まで。10時間以上のカリキュラム。そして操作方法を教えるだけの研修は対象外になり得ること。

制度は毎年改正されます。実際の申請前には厚生労働省の最新パンフレットと、管轄の労働局への確認を必ず行ってください。そのうえで、研修の中身を「自社のどの業務をどう変えるためのものか」から設計すれば、助成金の要件は満たしやすくなります。