「社内の問い合わせ対応をAIに任せたいが、いくらかかるのか見当がつかない」「開発会社に聞いたら1,000万円と言われたが、それが高いのか安いのかも分からない」——社内チャットボットの検討で、最初に止まるのはたいてい費用の話ではないでしょうか。

社内チャットボット(RAG)の費用は、既製のサービスを使うか自社向けに開発するかで、月4万円のSaaSから総額数千万円の開発案件まで、桁が2つ以上変わります。しかもこの差は「機能の豪華さ」ではなく、進め方の選択で決まります。

この記事では、実際に価格を公開している開発会社やサービスの数字をもとに、費用の全体像・内訳・跳ね上がる原因・見落とされがちな保守費までを整理します。東海エリアで導入を検討している中小企業の方が、見積書を受け取ったときに中身を判断できる状態になることを目指しています。

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明るい会議室で、担当者と管理職がノートPCの画面と紙のファイル資料を見比べながら、社内チャットボットの導入を検討している様子

費用は「3つの進め方」で桁が変わる

まず全体像です。社内チャットボットの実現手段は大きく3つあり、それぞれ費用の桁が違います。

進め方 初期費用 月額 向いているケース
既製SaaSを契約する 0〜260万円 4万〜16万円 対象文書が限られ、標準機能で足りる。まず試したい
自社向けにPoC(小規模検証)を開発する 50〜300万円 数万円〜 自社の文書で精度が出るか確かめてから判断したい
本番システムとして開発する 300万〜1,200万円 10万〜50万円 権限管理・基幹システム連携・全社展開まで見据える

SaaSの月額は、社内文書検索に特化した国産サービス各社の公開価格をならしたレンジです。たとえばナレフルチャット(CLINKS)が月4万円から、ミンクスプラス生成AI(NTT東日本)が初期11万円+月15.4万円からといった水準で、社内RAGサービスの比較記事に各社の公開価格がまとまっています。

一方、Microsoft 365やGoogle Workspaceをすでに使っている会社なら、そのアドオンという選択肢もあります。Microsoft 365 Copilotの公式価格は、Copilot Businessのアドオンが年間契約で1人あたり月2,698円(税別)です。全社員に配ると相応の額になりますが、まず数名で試すなら最も軽い入口になります。

そして自社開発。ここが最も幅が大きく、判断も難しいところです。

自社開発の相場——公開価格を出している5社を横断すると

開発費用の相場は、価格を公開している国内の開発会社を横断すると、おおよそ次のように収束します。

規模 費用の目安 期間の目安
PoC・小規模検証 50〜300万円 2週間〜2か月
部門向けの本番構築 300〜1,200万円 2〜4か月
全社展開・基幹システム連携込み 800〜5,000万円 4〜8か月

出典はGXOriplaTWOSTONE&SonsニューラルオプトAQUAの5社が自社サイトで公表している価格です。第三者の統計調査ではなく各社の営業上の目安である点は割り引いて見る必要がありますが、5社の数字が重なる帯は実勢に近いと考えていいでしょう。

中小企業が「社内の問い合わせ対応を1部門で回す」規模なら、現実的な着地は300〜800万円のあたりです。当社のAI受託開発の料金も、PoC 50〜200万円・本格実装200万円〜で設計しており、このレンジと整合しています。相場の詳しい内訳はAI受託開発の費用相場にまとめました。

内訳を見ると分かる——お金がかかるのはAIではない

見積書の総額だけ見ても判断できません。中身を分解すると、費用の性質がはっきりします。

GXOが公開している従業員300名想定のモデルケース(本番構築600万円・3か月)の内訳が具体的なので引用します。

項目 金額 割合
データ整備 150万円 25%
UI開発 250万円 42%
ベクトルDB構築・最適化 60万円 10%
認証・権限管理 80万円 13%
テスト・チューニング 60万円 10%

同社は費用構成比を、データ整備20〜30%/ベクトルDB 15〜25%/LLM API 10〜20%/UI開発・システム連携30〜40%としています。

社内チャットボット構築費用600万円の内訳。UI開発250万円(42%)、データ整備150万円(25%)、認証・権限管理80万円(13%)、ベクトルDB構築60万円(10%)、テスト・チューニング60万円(10%)。上位2項目で初期費用の約7割を占める。LLMの利用料は月額運用の側に計上され、構成比でも10〜20%程度にとどまる

注目してほしいのは、同社が示す構成比でもAIそのもの(LLMの利用料)は全体の1〜2割にすぎないことです(上のモデルケースでは、LLMの利用料は初期費用ではなく月額運用の側に計上されています)。費用の主戦場は、社内文書を機械が読める形に整える作業と、社員が実際に使う画面まわり。つまり社内チャットボットの費用とは、AIの値段ではなく、自社の文書と業務にAIを合わせ込む人件費です。

この構造を知っていると、見積書の読み方が変わります。データ整備の項目が極端に安い見積もりは、文書の実態を見ずに出された可能性があります。逆にそこが厚い見積もりは、リスクを正直に織り込んでいると見ていいでしょう。金額の大小より、内訳のバランスを見てください。

なぜデータ整備がそこまで効くのかは、RAGとは?社内チャットボットの仕組みと、精度が出ない本当の理由と、製造業のAI活用は「データ整備」から始まるで詳しく書いています。

見落とされがちなランニングコスト

初期費用の交渉に気を取られ、運用開始後の費用まで見ていないケースは少なくありません。月額は主に4つで構成されます。

項目 目安 補足
LLMのAPI利用料 月数千円〜数万円 月1,000件程度の問い合わせなら数千円台に収まることも多い
ベクトルDB 月3,000円〜3万円 Pineconeなら定額プラン月20ドルから、本格運用で月50ドル以上
インフラ 月5万〜20万円 規模とクラウド構成による
文書更新・メンテナンス 月10万円〜 実質これが最大。人が手を動かす部分

AIの利用料は、思ったほど高くありません。たとえばAnthropicの公式価格ではClaude Haiku 4.5が100万トークンあたり入力1ドル、Googleの公式価格ではGemini 2.5 Flash-Liteが同0.1ドルです。社内の問い合わせ対応くらいの分量なら、月数千円から1万円程度で回る規模感です。

むしろ効いてくるのは最後の行、文書の更新とメンテナンスです。規程が改訂されたのに古い版が検索対象に残っていれば、AIは平気で古い方を答えます。ここを誰が担当するかを決めずに導入すると、数か月で精度が落ち、使われなくなっていきます。

保守費については、TWOSTONE&Sonsとニューラルオプトの2社がそろって「年間保守費は初期開発費の20〜30%」という数字を公表しています。1,000万円の案件なら年200〜300万円。初期費用だけで予算を組むと、2年目にまず足りなくなります。

費用が跳ね上がる5つの原因

同じ「社内チャットボット」でも、300万円で済む会社と3,000万円かかる会社があります。分かれ目は次のような点です。

原因 何が起きるか 抑える方法
対象文書を最初から広げすぎる 部署ごとに形式が違い、前処理だけで数百万円。データ整備は単独で200万〜1,000万円になる例もある 最初は1部門・よく聞かれる質問の範囲に絞る
精度100%を目指す 再ランキングや評価基盤の作り込みで100万円単位の追加。しかも100%にはならない 「8割正解+出典を示す」で運用に乗せ、残りは人が見る
既存インフラを使わない 認証基盤やストレージをゼロから作ることになる Microsoft 365やGoogle Workspaceの既存環境に乗せる
すべての質問に高性能モデルを使う API利用料が数倍に膨らむ 簡単な質問は安いモデル、難しい質問だけ高性能モデルに振り分ける
外部システムとの連携を後から足す 連携先1件ごとに30万〜200万円 連携が必要な業務を最初に洗い出し、優先順位をつける

上の5点はGXOが挙げる「費用が膨らむ理由」と、各社が示す追加費用の実額を突き合わせたものです。共通するのは、技術の問題ではなく範囲の決め方の問題だということ。最初に欲張らないことが、そのままコスト管理になります。

一般論の限界——「いくらか」より前に決めることがある

ここまで相場を並べてきましたが、正直に言えば、費用の質問に一般論で答えることにはあまり意味がありません。同じ300万円でも、成果が出る会社と出ない会社があるからです。

数字で見てもそうです。帝国データバンクが2026年3月に10,312社から回答を得た生成AIに関する企業の動向調査では、生成AIを活用している企業は34.5%ですが、「あまり活用していない」「ほとんど活用していない」と答えた企業も合わせて約37%あります。導入したこと自体は成果を意味しません。同調査で企業が挙げた課題の1位は情報の正確性(50.4%)、2位は専門人材・ノウハウ不足(41.3%)でした。

だから当社は、社内チャットボットの相談を受けたとき、いきなり構築の見積もりを出しません。先に確認するのは次の3点です。

  1. どの質問をAIに任せるのか——「なんでも答えるボット」は必ず失敗します。問い合わせ件数の多い上位20問を特定するところから始めます
  2. その答えの根拠になる文書は、いま何の形式で、どこにあるのか——スキャンPDFしかない、最新版が個人のPCにある、といった状態なら、構築より先に整備の話になります
  3. 運用後に文書を更新するのは誰か——ここが決まらない案件は、作っても半年で止まります

そのうえで、SaaSで足りるならSaaSを勧めます。開発を売りたいから開発を勧める、ということはしません。当社がAI顧問や研修という形も持っているのは、会社ごとに正解が違うからです。自社データの活かし方には、RAG以外の選択肢もあります(自社データをAIに使わせる3つの方法)。

そして東海の会社である以上、現場に行きます。 名古屋から愛知・岐阜・三重・静岡のどこへでも伺い、どんな問い合わせが日々発生しているのかを実際に見てから設計します。東京のオンライン完結型の見積もりでは、この部分が抜け落ちます。文書の実態を見ずに出された金額は、後から必ず動くからです。

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よくある質問

Q. まず一番安く試すには、いくらから始められますか。 A. すでにMicrosoft 365を使っているなら、Copilotのアドオンを数名分だけ契約する形が最も安く、1人あたり月2,698円(税別・年間契約)からです。社内文書に特化したSaaSでも月4万円台からあります。まずこの規模で「そもそも社員が使うか」を確かめ、手応えがあれば自社開発を検討する順番をおすすめします。

Q. PoCに100万円かけて、失敗したら無駄になりませんか。 A. PoCの目的は、動くものを作ることより「自社の文書で精度が出るか」を判断することです。出ないと分かること自体が成果で、そこで止めれば本番構築の数百万円を使わずに済みます。むしろ危ないのは、PoCを飛ばしていきなり本番構築に進み、データ整備の問題が納品直前に発覚するパターンです。

Q. 見積もりを比較するとき、どこを見ればいいですか。 A. 総額ではなく内訳です。特に「データ整備」の工数がどれだけ積まれているかと、その根拠として自社の文書を実際に見たかどうか。加えて、保守費が年間いくらで何が含まれるか(文書の追加・更新は含まれるのか)を必ず確認してください。ここが曖昧な見積もりは、運用開始後に追加費用が発生します。

Q. 補助金や助成金は使えますか。 A. 社員がAIを使いこなすための研修には人材開発支援助成金が使えます。一方、開発費そのものは制度を選びます。デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は事務局に登録されたパッケージソフトとその導入費用が対象で、スクラッチ開発や特定顧客向けの開発は対象外です。RAGは自社文書に合わせて作り込むぶん、この線引きに引っかかりやすい領域なので、構成を決める前に確認してください。愛知県内で使える制度は愛知県の中小企業が使えるAI導入の補助金・助成金まとめに整理してあります。制度は年度で変わるため、検討時点の公募要領を必ず確認してください。

まとめ

社内チャットボット(RAG)の費用は、既製SaaSなら月4万円台から、自社開発ならPoC 50〜300万円、部門向けの本番構築で300〜1,200万円が目安です。ただし内訳を見ると、費用の大半はAIの利用料ではなくデータ整備とUI開発、つまり自社の文書と業務にAIを合わせ込む人の工数です。

そして年間保守費は初期開発費の20〜30%が目安です。初期費用だけで予算を組まず、2年目以降を含めて考えてください。

費用を抑える最大のコツは、値切ることではなく範囲を絞ることです。全社の全文書を対象にした「なんでも答えるボット」ではなく、よく聞かれる上位20問から始める。この決め方ひとつで、金額も成功率も大きく変わります。